#5

 エナメル=レインドロップの住む部屋は、明らかに監視を前提に置いた造りになっていた。つまり、外からでは部屋の様子をのぞくことのできない間取りの部屋を、彼女は、わざわざ探して借りたらしいのだ。その用心が役に立っているのは言うまでもない。なんせ今、私と組織という二勢力から同時に張り込まれているのだから。

 私は、エナメルの監視をいったん諦めて、組織の人間を監視することにした。おそらく人数は7人ほどで、ずいぶん本格的なものだ。どうやら私には気付いていない(気付いていたとしたら、私は今頃、何らかの手段で排除されているからに違いないからである)ようだった。服装はサラリーマン風の男が4人、清掃員風の男も2人いて、こちらは車のようなものに乗り込んでいる。そして、最後の1人、どう考えても殺し屋にしか見えない人間がいるのだが・・・。果たして殺し屋にしか見えない殺し屋がいるものだろうか。だいたい殺し屋にしか見えない格好というのが形容しづらい。だが、とにかく殺し屋にしか見えないし、事実、殺し屋なんだろう、あれは。

 さて、私の方はというと、実際にはエナメルの家から500mほど離れた地点にあるライトバンの車内にいた。学生の頃、どうせ研究をやるのなら機材が運べるほうがいいと思って、12回ローンで買った代物だった。現実には研究もやらせてもらえなかったし、機材も運ぶことはなかったのだが、その代わり、尾行に必要な怪しげな機械が載っている。私が、機械に囲まれた狭いシートに座りながら、4本目になるコーヒーの缶を手にした時。「組織」が動いた。(つづく)

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